「あの、ビクンビクンってなんですの?」

主人公は世間知らずの超箱入り天然お嬢様・万里小路かやの(19)。
異性や恋愛、性にまつわる情報から一切遮断した環境で育てられるのが、万里小路家の跡取りの宿命。
次期当主である彼女は若い男性に近付くことすら許されず、
それでも学生時代に小耳に挟んだ同級生たちの
「恋バナ」
に、いつか自分も……と、心ときめかせていた。

8世紀から脈々と続く由緒正しい名家である万里小路家は、
「クスノキ様」
と呼ばれる聖木を祀り、
儀式を捧げることで、世界の安寧と一族の繁栄を祈願する。
主人公は儀式に使用する一族秘伝の特殊な文字
を学び、家を継ぐ準備をしている。

婚約者と初めて会う日の前夜、主人公は不思議な夢をみる。
目を覚ました彼女はそのまま謎の声にいざなわれ、屋敷の開かずの間らしき部屋へと足を踏み入れる。

怪しげなその部屋から逃げ出した主人公は、いつの間にか一冊の古びた帳面を手にしていた。
不思議に思う彼女の前に――

「オレはこの帳面の精ってとこ。『くっすん』とでも呼べよ」


「くっすん」
と名乗る、生意気そうな子どもの精霊が現われた!
目下勉強中の
「玖珠文字」
を使って、自由に願いを書きこめとのこと。

言われるままに願いごとを書いてみると……

「これは……、さっき帳面に書いた願いが叶ったということ……?」


翌朝、婚約者との初めての対面を迎える主人公。
初めて間近で見る若い男性に様々な疑問が舞い降りる。
そんな疑問を解決するため、帳面に願いを書き込んでしまう主人公。

特別な役目を与えられた使用人との再会。新しい家庭教師との出会い。
今まで接することを許されなかった若い男たちとの出会いが、
彼女の好奇心に火をつけ、淫らな妄想と願いがあふれ出す――。
不思議な帳面を手にした主人公の、妖しく淫靡な日常が幕を開ける。






◆『万里小路家』とは?

8世紀から連綿と続く、歴史ある名家。
次期当主となる娘は、二十歳の誕生日に「成人の儀」を終えて結婚するまで、性的な事柄から徹底的に遠ざけて育てられるしきたりがある。

◆『クスノキ様』とは?

万里小路家が代々祀り上げてきた聖木。一族の象徴でもある。
当主は「クスノキ様」に捧げる儀式を行い、世界の安寧と一族の繁栄を祈願する。
普段は くすもり と呼ばれる役職の者しか世話が出来ず、今は樟近開がその役目を担っている。

◆『玖珠文字』とは?

万里小路家の女性のみが扱うことを許された、一族に伝わる特殊な文字。
主人公は女学校を卒業後「玖珠文字」の勉強を始めたが、まだほとんどの文字を書くことが出来ない。